皮膚疾患領域の情報誌『Dermatofile』
皮膚疾患領域の情報誌『Dermatofile』
No.28(2002年06月25日 発行)より
徳島大学名誉教授 武田 克之氏
皮膚は紫外線、湿度・温度、汚染・感染等の外因、栄養状態、内部臓器、精神の状態、体液循環動態等の内因に影響される。
生体は外因に対しては皮膚の細菌層(フローラ:一定のバランスを保って皮膚に定着している善玉細菌の集まり)が、 内因に対しては腸内細菌叢が対応し、皮膚の状態維持に密接に関与している。
すなわち健常な皮表には好気性のエピデルミディス菌、深部には嫌気性のアクネス菌がバランス良く常在し、仲良く棲み分けてフローラを形成している。
これら細菌叢と皮脂・汗が混合して乳化し、さらに細菌叢の産出した成分も加わり構成された皮脂膜は、皮表を弱酸性に保つ各種脂肪酸などと共働して皮膚を防御し、活動を維持している。
この皮脂膜は角層の細胞間脂質(セラミド)と共に自然保湿因子(NMF)として大きな役割を果たしている。
ともあれ、皮膚は変動しやすく、適応性に富む器官で、内・外要因の変化に対応し、速やかに機能を変動させ、恒常性の保持に役立っているが、著しく機能的に侵されると病変を生じる。
たとえば皮表は紫外線、大気汚染物質、 酸素に曝されて活性酸素、過酸化脂質を発生し続けている。
活性酸素はDNA、蛋白質、種々の酵素を障害して生体膜を構成する。
脂質を酸化し、細胞毒性が強く皮膚老化を促す過酸化脂質を産生している。
その際には紫外線を吸収する皮膚細菌叢のバランスの崩壊が実証されており、 細菌叢は皮膚の老化を促進する紫外線を吸収し、その障害を軽減しているとみてよい。
他方、同じく光酸化反応による活性酸素、過酸化脂質が作用して発症する先天性素質に基く雀卵斑、後天的素因に基因する肝斑、シワ、 たるみの増加と皮膚萎縮も女性にとって大きな悩みである。
これら肝斑を誘発し、コラーゲンの劣化、 ヒアルロン酸の分解によりシワを形成させる活性酸素を、善玉細菌叢は菌体内のSOD・カタラーゼにより分解・除去して皮膚障害を抑え、老化を防いでいる。
健常皮膚の最優勢菌である嫌気性菌のアクネス菌は菌体内に保持するSODやカタラーゼにより活性酸素を処理している。
また皮膚細菌叢は皮膚の弱酸性環境を制御しながら、コラーゲンの合成を活性化する繊維芽細胞の増殖をもたらすサイトカイン様物質も産生し、シワを防いでいる。
従って生体の皮表には皮脂とフローラが不可欠とみなされ、長年に渡り皮膚フローラを科学的に究明して皮脂膜の成分を補い、皮膚フローラを正常化し、 活性化する成分を供給するヒューマンフローラシリーズ(常在細菌活性因子配合のスキンケア製品)が創生された。
アトピー性皮膚炎や老人性乾皮症などのドライスキンは、前者ではNMFの主成分であるアミノ酸が減少して角質細胞の柔軟性も低下し、皮膚のカサツキ感を生じ、 特に角質層のセラミド量も減少して水分保持が低下し、バリア機能低下を生じている。
後者では老化に伴う皮脂分泌量の減少、さらのはセラミド分解酵素である角質層セラミターゼ酵素の老化による活性増加とセラミド生成酵素のスフィンゴミエリナーゼ酵素の老化による活性減少が原因とみなされている。
従って今後セラミドのように細胞間脂質として脂質二重層を形成し角質成分を保持すると共に、バリア機能を補強し得るヒューマンフローラシリーズなどの併用効果が期待される。
環境病としての色彩が濃いアトピー性皮膚炎は、アレルギー素因と非アレルギー的なドライスキン素因の二面性を合せ持ち、環境と胴体との接点にあたるバリア機能に果たす皮膚常在細菌(フローラ)の役割は興味深い。